foolish wish



今日は隣町の大きな神社でお祭りだ。

「すげーいい匂い……謙吾、行くぞ!」
「おうとも!」
 屋台全種類制覇! と叫びながら、真人と謙吾は人混みに消えて行く。
「ゆいちゃんはここのお祭りはじめてなんだよね?」
「たのしいか、くるがや」
「うむ、なかなかいいものだ。目の保養になる」
「え? あ、ゆいちゃんっ、おしり触らないでっ」
「よいではないか、よいではないかー」
 小毬さんと鈴、そして二人の浴衣姿を眺めてハァハァしてる変態さんは、とても甘そうなりんごあめを食べている。


「理樹、なんか食うか?」
「……」
「無視するなって。奢ってやるからさ」
 恭介は僕に一生懸命話しかけてくるが、それどころではない。同じ学校の人を見かける度にどきっとする。こんな格好を見られたら、僕は明日から変態扱いされるに決まっているからだ。
「なるほど、恭介さんは女装萌えに目覚めたんですね。それから痴話喧嘩、と」
「西園さん、なにをメモってるのかな」
「みおちんっ、クド公っ、かき氷食べに行くよ!」
「三枝さん……ひっぱらないでください」
「わふー! 抹茶あずきはありますかっ?」
「女子は元気だなぁ。な、理樹」
「うるさい。ド変態」
「ぐっ」

 そう。恭介は僕に女物の浴衣を着せる変態さんなのです。どこから調達してきたのかは企業秘密らしい。
『俺が優しく着せてやるのと、来ヶ谷と二人で無理矢理身ぐるみ剥がすの、どっちがいい?』
 満面の笑みで言う恭介と、その後ろではぁはぁしてるおねーさん。選択肢なんか無いも同然じゃないか。

「怒ってるのか?」
「これで怒らなかったら僕が変態だよ。知り合いに見られたらどうしてくれるのさ」
「周りからみたら、俺達恋人同士に見えるよな。理樹はそこらへんの女子より可愛
 …………み、見ろっ、あのたこ焼き! くちゃくちゃ旨そうだぞ!」
「……」
「怒ってたっていいことないぞー?」
「誰のせいだと」
「腹減ってるだろ、今日は何でも買ってやるから」
「はぁ」
 僕は恭介に甘すぎるのかもしれない。

 本当にお腹がすいてきたので恭介がくちゃくちゃ旨そうだと言った、たこ焼きを買わせることにした。これくらいは当然だよね。


 周りを見渡してみるとカップルだらけだった。浴衣姿の女の子が、隣りを歩く男の子の腕にからみつく。暑くないのだろうか。僕の隣りを歩く恭介を見てみる。おいしそうにたこ焼きを頬張っている。恭介は女の子と二人で来たいと思わないのだろうか。僕と二人で歩いて楽しいのかな。

 恭介もいつかは恋人を作って、僕たちから離れていってしまうのだろうか。

「理樹、手つなぐか」

 どうして今それを言うの、とか。恭介は残酷だよね、とか。そんなことを思いながらも頷いてしまう僕は本当にどうしようもないんだと思う。
「ま、まじでか。断られるかと思った」
「はぐれたら大変だから」
「……ああ」
 理由を作らないと手をつなぐことも出来ない。もし僕が本当に女の子だったら、堂々と恭介の隣にいられたのかな。

「ね、恭介」
 この浴衣を着てよかったと、今初めて思った。これを着てなかったら、僕はたぶん恭介と手をつなげなかった。この感覚を懐かしいと思ってしまうことが少し悲しかった。僕はいつまで恭介の隣りにいていいの?


この手を離したくないよ。


「理樹?」
「なんでもない」
 つなぐ手に力を込める。恭介はそっか、と答える。その顔が少し笑っているように見えるのは気のせいだろうか。恭介のことだからもう全部わかってるのかもしれないけど。もう少しだけ待ってほしいと願う。あと一歩踏み出す勇気が出るその日まで。


「理樹と手つなぐと、落ち着くんだよな」
 ……暑さとは違う意味で、くらくらした。